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心安らぐ東京の麦茶
川原製粉所「東京麦茶」

 

東京路地裏の銘茶

夏に涼をもたらす、麦茶。この日本古来の飲み物も、近年話題になっている食料自給率の低下のご多分に漏れず、外国産の大麦製ものを多く見かけるようになった。そのような時代に、「一度飲んだら、ほかの麦茶が飲めなくなる」と言われる銘茶がある。

 


東京麦茶 丸つぶ / 川原製粉所

 

しかもそれは東京の路地裏でつくられているという。東京練馬区にある川原製粉所。いまや都内に2軒しかない麦茶の焙煎所。創業した昭和15年より、伝統的な「砂釜焙煎」で、香り高く優しい味わいの麦茶をつくり続けている。かつては、お茶屋などへの卸を主にしていたが、いつからか、その味に触れた者たちが、直接工場を訪れ「売ってほしい」と言うようになった。

 

「昔は近所の人ぐらいだったんですが、口コミなのか、次第に遠方からも買いに来てくれる人が増えて。うれしいことに『昔からの本当の麦茶』なんて言ってくださる方もいます」

 

そう話してくれたのは、3代目の川原渉さん。

人々を虜にする川原製粉所の麦茶について、お話をうかがわせていただいた。

 

 

砂釜焙煎が引き出す、芳醇な麦の風味

石神井川に沿って歩いていると、工場の少し手前から、芳ばしい香りがしてきた。工場内に足を踏み入れると、焙煎による熱気と、鳴り響く機械音、そして麦の優しい香りが広がっている。砂釜焙煎に欠かせない煉瓦製の窯は、現在ので3代目だという。

「次壊れたら、もう同じものはつくれない、って言われてるんですよね 苦笑」

 

実は、麦茶の味を決める大部分は「焙煎方法」だという。現在の主流は、熱風焙煎。煎りムラをなくし、機械管理で、美味しい麦茶を大量に生産することができる。砂釜焙煎は、誤解を恐れずに言えば、その真逆の製法である。

「石窯の中に300℃に熱した砂と麦を入れ、麦を爆ぜさせ、その表面積を増やすことで、味と香りを最大限まで引き出します。焦げる寸前を狙うのと、その日の気温や天候などで毎回条件が変わるので、職歴40年以上の職人でも失敗することがある難しい技術です。もちろん、沢山はつくれません」

 

熱風焙煎された麦と見比べると、麦が大きく膨らみ、深煎りから浅煎りまでバラツキがあるのがわかる。

 


砂釜焙煎(左)と熱風焙煎(右)された大麦

 

「この煎りムラがあることが、うちの麦茶の美味しさの秘密なんです」

 

砂釜焙煎された丸つぶを煮出して飲むと、まるで砂糖が入ってるような強い甘味と、続いて訪れる苦み、の複雑に入り組んだ旨味を愉しめる。本当の麦茶の味を知る者は、この味を求めて川原製粉所を訪れる。

 

「すごく手間と技術がいる焙煎方法なんですけどね。でも、『この味を知ったら、元の麦茶に戻れなくなった。どうしてくれる』なんて言ってくださる方もいて。そんな人たちのためにも、昔から変わらない製法でつくり続けています」

 

 

東京麦茶の「安心」

変わらない味を期待される、川原製粉所の麦茶。そこに川原さんは、自分の代に、ひとつ変化を加えた。

 

「『東京麦茶』という自分たちの精一杯をかたちにしたブランドを立ち上げるときに、国産の無農薬大麦を使うことに決めました」

 

外麦の増加に伴い、いまや生産者が激減した、国内産の無農薬大麦。原料だけでこれまでの3倍以上かかると言われた。それでも、こだわりたい理由があった。

 

「うちは子供が4人いるんですけど、妻が妊娠中も麦茶を飲んでいて(ノンカフェインの麦茶は妊婦にもおすすめ)。そのときに、何よりも思ったのが、自分の家族が口にするものが『安心』できるものであってほしいということだったんです」

 

母のお腹にいるときから、年を経ても。麦茶は日本人が生涯飲み続けるもの。だからこそ、それは安全なものでなければならない、と川原さんは気づいた。

 

そして、もうひとつ。

 

「麦茶をつくってると言っても、加工業の自分たちは、大麦を育ててくれる農家さんがいなければ何もできないんです。なので、そのパートナーがいつまでも大麦をつくり続けられるように、先代からつながりのあった農家さんなどと交渉し、栽培する無農薬大麦の量を増やしてもらい、そのすべてを買い取ると約束しました」

 

私たちがいつまでも美味しい麦茶を飲み続けられるために。川原さんの「東京麦茶」には2つの「安心」が込められている。

 

 

いちばん美味しい飲み方

その東京麦茶をいちばん美味しく飲める方法をご本人にうかがった。

 

「香りと味を最大限に楽しむなら、『丸つぶ』の『煮出し』がおすすめです」

 

東京麦茶には昔ながらの淹れ方で楽しめる「丸つぶ」と、水出しで手軽に味わえる「ティーパック」の2種類がある。これは東京麦茶が始まる前、川原製粉所にて麦茶を直販売していた頃から変わらない。

 


東京麦茶 丸つぶとティーパック

 

「お客さまは、パックを買う方のほうが多いんですけど。丸つぶを煮出したほうが、麦の甘味を強く感じられて美味しいと思います」

 

教わった淹れ方は以下の通り(お持ちのリバーズドリンクウェアでもつくれます)。

 

【いちばん美味しい
「丸つぶ×煮出し」】

1.やかんや鍋に1.8Lほど水を入れ、丸つぶを40~60g(コップ1杯)入れる。

 

2.火にかけて沸かし、ふきこぼれる寸前に火を弱め、3〜5分煮立てる。

 

3.しばらく冷まし、茶漉しなどで漉しながらポットなどに移す。底に残った澱(おり)まで入らないように、中身を少し残す。


スタウトエア1000+ボトルストレーナーロングでもOK。

 

4.ポットごと流水で急冷したのち、冷蔵庫に入れて完成

 

「ただ、正直、時間はかかります。手間をかけても美味しい飲み方で、というのは麦茶屋としての理想ですけど、いっぱい子供がいる父親としては、家にある2本の麦茶ポットがフル稼働してるのも知っていて 笑。だから、手間がかかると“続けられない”というのもわかるんです」

 

そこで川原さん達が考えたのが、手軽なティーパックを使って、煮出しと同じ美味しさを味わう方法だった。

 

【美味しく直ぐに飲める
「パック×お湯・水出し」】

1.1〜1.5Lの耐熱ポットにパックを1包入れ、少量のお湯を注ぎ、1〜2分間おく


熱湯を直接注げる耐熱素材のものが必須。

 

2.その後、水を注ぎ、冷蔵庫で冷やして出来あがり。

 

「ティーパックの麦は、丸つぶと焙煎方法を変えていて、水でも味と香りが出やすいように濃いめに焙煎しています。この淹れ方なら手間なく美味しい麦茶を楽しんでいただけると思います」

 

考えられる最高の製法と素材を用いながら、川原さんが何度も口にしたのが、「麦茶は(高級品ではなく)『普段』の飲み物ですから」という言葉。あなたの普段に合った淹れ方で、ぜひ楽しんでみてください。

 

川原製粉所
〒176-0003東京都練馬区羽沢3-27-1
https://tokyomugicha.thebase.in/

 

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川原渉(かわはら・わたる)1974年東京都出身。バックパッカーとして各国のお茶文化に触れたのち、2003年に川原製粉所に入社。2016年より3代目代表取締役に就任。翌年、自分たちが信じる最高の麦茶をかたちにすべく「東京麦茶」ブランドを開始。一度飲んだらほかの麦茶に戻れないと口コミで広がり、現在は国内に留まらず台湾やフランスなど海外でも最高品質の麦茶としてファンを拡大している。
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