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TALKING ABOUT RIVERS

昨今のアウトドアブームが生み出した新しいキャンプの楽しみ方として、自分だけのキャンプサイトをデザインすることがあります。この沼にハマったキャンパーは、ガレージブランドや個人クリエイターが生み出すこだわりの道具を見つけ出し、より魅力的な「自分だけ」を追求することに余念がありません。個性的なサイトに魅かれて、さらに個性的なキャンプサイトが生まれる。そんな世界が広がっています。

その先駆け的な存在が、アシモクラフツのMORINO氏。今回、リバーズとの「キートプロジェクト」を記念して、人気商品のアシグリップ誕生秘話から、リバーズコラボまでお話をうかがいました。

 

 

童心が生み出した大人気グリップ

 
「アシグリップは、僕の“いたずら心”から生まれた、と言っていいのかもしれません」
 
エポックメイキングな製品の誕生にはよく偶然が影響するが、ガレージブランド人気を象徴するアイテムにもそんな誕生秘話があった。順を追って話していこう。彼がキャンプを始めたのは、いまから10数年ほど前。ふたりの娘との時間をつくりたかった、というのが最初の動機だった。始めたばかりのころは右も左もわからず、ホームセンターなどで市販のキャンプ道具を購入し使用していたが、やがてある“衝動”が湧いてきた。
 
「ものづくりをするんで、基本的に道具にはリスペクトを持つタイプなんですが。その中でも、ここのパーツはこうあったほうがより使いやすいよなとか、自分で手を加えたくなる箇所が、キャンプを続けていくうちに見つかっていって。その部分を自作していったのが、いま思えばアシモクラフツの始まりだったと思います」

「リバーズにアシモクラフツのファンがいると聞いたときはうれしかったですね。いま一緒にコラボしているナチュラルマウンテンモンキーズとか、ジェリー鵜飼さんとのコラボモデルを知っていたので、いつか一緒にやれたらいいなって思ってたんです」

それは、ただ道具に手を加え始めただけではなかった。彼は、自分がつくったものをブランドのアイテムのように扱い、ロゴまでデザインし(現在も使用しているアシモクラフツのロゴ)、新たにできたキャンプ仲間たちと楽しんでいたのだ。
 
「この時点ではまだブランドを仕事にする気はありませんでした。ただものをつくるのが好きで、自分の手によるものだということは発信したかったのかもしれません。そんなことをしていたら、道具のカスタムとか修理とかを仲間たちから依頼されるようになってしまって 笑」
 
あるとき、キャンプ仲間のひとりが薪ばさみの修理を依頼してきた。
 
「そのときに、なんか、普通に返したくないなあと思ってしまって 笑。アッと驚くような形にしてやろう。しかも、相手が嫌な顔をするようなものではなく、(気に入ってしまって)受け取らざるを得ない楽しい形に、と思ったんです」
 
いたずらやドッキリは、本気で仕掛けるからこそおもしろい。彼はこの思い付きのために複数のデザインを考案し、制作、試行錯誤を繰り返した。軽い気持ちで修理を依頼した友人は延々と待たされたと言う。

そうして、ようやく納得のいく形に出来あがったのが、現在のアシグリップの原型である。

サーモジャグ キート専用のアシグリップ。こちらも握りやすさや、指の置き位置、デザインの美しさを理想を追い求めて、幾度も試作モデルが制作された。

ひと目見て握ってみたくなる造形は、日本建築の伝統技法、名栗加工と比べられることがあるが、MORINO氏がその技術を学んだことはない。それは、“ずっと、握っていたくなるよう”考え抜き、友人を自分がつくった道具の虜にしてやろうと、真剣な遊び心の末に生まれた、職人ではなくキャンパーの手によるクラフトであった。

グリップを受け取った友人は、変わり果てた姿に驚き、そして、予想通りに感激してくれた。ただ、その後、彼がそのグリップをSNSに投稿したことによって、ほかのキャンプ仲間から「オレの分もつくって!」と懇願され、全員分をつくることになったのは、「少し予想外でした」と笑顔で振り返った。

 
 

一夜にして変えたSNS

 
ところが、完成したアシグリップをSNSに投稿した影響は、仲間たちからの“お願い”だけではすまなかった。
 
「それまではブログだったんですけど、ちょうどそのあたりからSNSのInstagramに投稿し始めて。そうしたらフォロワー数が桁違いに増えて行って———」
 
人数はあっという間に1万人を超えた。これは現実だろうか? すると、その数を証明するように彼のもとにDMが届き始める。内容は、Instagramで見つけたアシグリップを購入したいというもの。グリップだけでなく、ブランドのアイテムのように投稿していた焚火台などに対しても、「どこで購入できる?」と問い合わせが続く。
 

 
「Instagramに投稿したことによって、ものすごい勢いで拡散されていきました。きっとこのSNSを利用していた方たちの性格もあったんだと思います。小さなところにもちょっとしたこだわりを持ち、だからこそいち早く気付く人たち。そういう人って情報の探し方も上手じゃないですか。アシモクラフツはそういう人らに発見されたんです」
 
増える一途のファンにMORINO氏はひとり応え続けた。しかし、その努力に比例するように、アシモクラフツの道具を求める声はその後もますます増えて行く。そして、コロナ禍を迎える直前、膨れ上がった期待に応えるべく、彼はそれまでの職を辞め、アシモクラフツに専念することを決断する。

その後は、起業前から実施していた他ガレージブランドとのコラボレーション開発もより積極的に実施。規模は大きくなれど、そのスタンスは決してブレず、ファンが望むこだわりの製品を世に送り出し続けている。そうしてアシモクラフツは、現在ガレージブランド界の中心的存在として、さらに多くのファンを獲得している。

 
 

asimocrafts meets RIVERS

 
そんなアシモクラフツとリバーズがコラボレーションするきっかけは何だったのか。
 
「もともと僕自身がコラボを楽しめる人間なんですよね。100%自分で考えたものじゃないといけないとかではなくて、リスペクトするギアと出会って、その握る部分だけアシグリップだったらいいなあとか。そうやってほかの人を巻き込んでものをつくるのも好きだし、それを楽しんでるからこそ、買っていただいてるお客さんにも伝わってくれてるのかなって」
 
この言葉を体現するように、アシグリップはさまざまなメーカーとコラボし、定番ギア用にモデルがつくられている。
 
「今回のキートに関しても、きっかけはスタッフの方からいただいたメールだったんですが、実はその前から『キートの握りを、いつかアシグリップにしたい』と思っていたんです』
 

 
はじまりは、キートをネット上で見つけたことだった。
 
「これ、キャンプに使えそうだし、何より———握る部分が木でできてるじゃん!って。なんて言うか、もう病気なんでしょうね 笑。握るところを見ると、そこをアシグリップにできるかできないか、外せるか外せないか、付け替えられるか付け替えられないか、って目で見てしまうんです」
 
その後、店頭に赴き、ハンドルが外せることを確認すると、その想いは余計に募っていった。それから間もなくしてのリバーズからのオファーだったのだ。最初の打ち合わせには、スキップして向かったと言う。こうして始まったふたつのブランドによる共同開発。風合いを決定づける木材については、アシグリップシリーズに共通して使われている楢材が採用されることになった。
 
「家具にも使われている木材で、木として堅くて丈夫ってのもあるんですけど、“味”があるところが好きで。人が“育てる”ことで経年変化を楽しめる木なんです」
 
この“育てる”という考え方こそ、アシモクラフツの醍醐味だ。今回キートハンドルACを購入された方に届くのはすべて同じ商品である。ただ、形や、色や、木目などはすべて異なる。それをより実感しやすいように無塗装の状態で販売することにした。さらに、塗装がないことにより、自分好みに蜜蝋を塗ったり、亜麻仁油にどぶ漬けしたり、カラーリングも自由に選択できる。自分だけの“味”にして楽しんでほしいという彼の哲学がそこには詰め込まれている。
 
「キートを使う場面というのは、きっと水回りなので、買っていただいた方には蜜蝋を塗って防水処理をしたり、自分ならではの方法でひとつしかないグリップを“育てて”、長く使っていただけたらうれしいですね」

 
 

ガレージの外へ

 
最後に、ガレージブランドの旗手となったMORINO氏に今後もっともしたいことをうかがったところ、「ファンとの交流」という答えが返ってきた。
 
「ここ数年はコロナ禍によってできませんでしたが、今年はいろんな方ともっと直に交流したいと思っています。販売店の売り場に立たせてもらったり、これまでに行ったことがないエリアのイベントに参加したり、そういうファンと直接触れ合える場所に」
 
SNSによって急拡大したアシモクラフツのファン。いま彼がしたいことは、その自分をブランドとして立ち上がらせてくれた人たちを、イメージから実像へと確かめる作業なのかもしれない。「使いたいという人たちの、生の声も聞けるし、ニーズもわかりますしね」。
 
気のせいだろうか、そう締めくくった彼の笑顔には、あの”いたずら心”がまた現れているような気がした。

 
 

MORINO HIROYUKI 1975年三重県出身。2000年ごろよりアシモクラフツとして自作のキャンプギアを制作。友人のためにつくったアシグリップの原型がInstagram上で話題となり、ガレージブランドの旗手的存在となる。他ブランドとのコラボレーションにも積極的で、ネルデザインワークスなど人気ガレージブランドとの共同製作も多数。